2013/03/15
時刻は午後 4時をまわっている
「先生、受付時間を少し過ぎちゃった患者さんが来たんですけど、診てもらえませんか?」
「先生しかいないんです」
外来ナースは申し訳なさそうだが、何としてでも鮎川に診て貰わなくては困るのだ
「もう随分待っていらっしゃいます」
無言の、いや有言のプレッシャーをかける
鮎川は思う
しかし、まだ今は当直の時間帯でもない
「きっと余程のことで受診したのかも知れない」
そう思った鮎川は
「はい、診ます」
と、快く引き受けた
22歳の小柄な女性だ
主訴は、朝からの腹痛、それに嘔吐
熱はなかったが、何となく元気がないし、笑顔もない
下痢はしていない
昨晩、友人達と夜遅くまで飲んでいたとのこと
鮎川の第一印象は 2日酔いか急性胃炎
痛いという腹部には圧痛もなく、腸の蠕動音も聞こえた
他にも特別な異常所見は見られなかったが、舌が多少乾燥しているようだった
5%ブドウ糖 500ccの点滴指示を出し、制吐剤と胃の粘膜保護剤とを処方して、念のために明日の午前外来を予約して帰宅可とした
この夜、重森さおりに大変なことが起きようことなど、予想だにしないで
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません