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No.227 失神

2013/03/28

夜になると雨は激しさを増した

「集中豪雨」 という言葉が藤谷太輔の頭に浮かんだ
川に近いこの病院は大丈夫だろうか?

そこに救急隊からの連絡が入った

「 78歳女性、糖尿病でそちらの病院に通院中ですが、数日間排便がないそうです」

「自宅で倒れ右肘を受傷、意識は清明、受け入れ可能ですか?」

「外傷なら外科か整形外科に依頼すればいいか」

藤谷は軽い気持ちで受け入れを了承した

5分後

救急隊のストレッチャーに乗せられて、患者が救急入口から入ってきた
意識はあるようだ

救急隊員がバイタルを読み上げる
「松永好子様、血圧 88の 60、 脈拍 40、サチュレーション 98%」

本人の語るところによると

トイレに行こうとして立ち上がった瞬間、血の引く感覚があり、目の前が真っ暗になり、畳の上に倒れたようだという
幸い、物音に気付いた家人がすぐに駆けつけた

家人の話では

駆けつけた時、患者は返事ができたとのこと
倒れた場所が畳の上だったせいか、右肘の外傷は擦過傷程度に見える

起立性低血圧? 心原性? 低血糖? TIA?

藤谷の頭の中には、失神の原因の鑑別がとりあえず 4つ上がった

しかし、先輩医師達から常に言われていること

「意識消失発作の原因として TIAの確率は極めて低い」

「高齢者の失神の原因は、心血管性の場合が多く、死亡に繋がる確率が高い」

を思い出して、 4つめは鑑別から落とした

救急室のモニターを見ると、心拍数は 32前後

救急隊は 40と言っていたが、きっと、この徐脈が失神の原因なんだろう

R-R間隔は一定だが P波が見えない

完全房室ブロックをともなった心房細動なのか、あるいは下壁の心筋梗塞か?

いや待てよ、高カリウム血症かも知れない

しかし、糖尿病があるとは言え、カルテからデータを拾う限り、腎不全はなく、高カリウム血症になる理屈はない

採血の結果

案の定、カリウムは 3.6で正常範囲、血糖値は 192mg/dlで、低血糖があったとは思えない

12誘導心電図をとると

細動波は全く見えなくて、心拍数はさらに少なく、一分間に 25である
下壁梗塞では時に徐脈となるが、今回は梗塞を疑わせる波形ではない

いづれにしても、 R-R間隔が、こうも延びると、血圧がキープできない

藤谷は、患者を透視室に運び、急いで体外式のペースメーカーを入れ、心拍数を 70にセットした

すると、血圧は 116/ 78に上昇し、患者はベッドから起き上がることができるようになった

「入院して徐脈の原因を調べましょう」

藤谷は、付き添ってきた患者の家族 (息子) と思われる人に、手短に病状を説明した

- つづく -

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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