2013/03/28
「集中豪雨」 という言葉が藤谷太輔の頭に浮かんだ
川に近いこの病院は大丈夫だろうか?
「 78歳女性、糖尿病でそちらの病院に通院中ですが、数日間排便がないそうです」
「自宅で倒れ右肘を受傷、意識は清明、受け入れ可能ですか?」
藤谷は軽い気持ちで受け入れを了承した
救急隊のストレッチャーに乗せられて、患者が救急入口から入ってきた
意識はあるようだ
救急隊員がバイタルを読み上げる
「松永好子様、血圧 88の 60、 脈拍 40、サチュレーション 98%」
トイレに行こうとして立ち上がった瞬間、血の引く感覚があり、目の前が真っ暗になり、畳の上に倒れたようだという
幸い、物音に気付いた家人がすぐに駆けつけた
駆けつけた時、患者は返事ができたとのこと
倒れた場所が畳の上だったせいか、右肘の外傷は擦過傷程度に見える
藤谷の頭の中には、失神の原因の鑑別がとりあえず 4つ上がった
「意識消失発作の原因として TIAの確率は極めて低い」
「高齢者の失神の原因は、心血管性の場合が多く、死亡に繋がる確率が高い」
を思い出して、 4つめは鑑別から落とした
救急隊は 40と言っていたが、きっと、この徐脈が失神の原因なんだろう
R-R間隔は一定だが P波が見えない
完全房室ブロックをともなった心房細動なのか、あるいは下壁の心筋梗塞か?
しかし、糖尿病があるとは言え、カルテからデータを拾う限り、腎不全はなく、高カリウム血症になる理屈はない
案の定、カリウムは 3.6で正常範囲、血糖値は 192mg/dlで、低血糖があったとは思えない
細動波は全く見えなくて、心拍数はさらに少なく、一分間に 25である
下壁梗塞では時に徐脈となるが、今回は梗塞を疑わせる波形ではない
藤谷は、患者を透視室に運び、急いで体外式のペースメーカーを入れ、心拍数を 70にセットした
すると、血圧は 116/ 78に上昇し、患者はベッドから起き上がることができるようになった
藤谷は、付き添ってきた患者の家族 (息子) と思われる人に、手短に病状を説明した
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません