2013/04/15
「最近、おばあちゃん、何か変なんです」
87歳の桜井さんは、年齢の割にしっかりした人で、高血圧と、ごく軽い糖尿病以外には特に病気らしい病気はない、陽気なばあさんだ
しかし、どういうわけか、今日は、息子の嫁と一緒に診察室に入ってきた
杉田 : 「どういう具合に変なんです?」
嫁 : 「普段は温厚な人だったんですが、ささいなことで怒りっぽくなって、ちょっとしたことですぐ口論になるんです」
「また、やたらと水分を摂りたがるんです 認知症の始まりじゃないでしょうか?」
以前 「ピック病」 と呼ばれていた、 「前頭側頭葉変性症 (FTLD) 」と分類されるものがあり、このタイプは確かに人格の急変を起こす
万引き、破廉恥などの反社会的行動を平気でおこない、性格は自分勝手、わがままになるというのが典型である
「他人に攻撃的になるだけ」 というのは FTLDの病像とは少し異なる
「それに、最近、鬱病っぽい、って言うか、理由もなく、ふさぎこむことも多くなって来たように思います」
「これは精神科に紹介するべきだろうか?」
杉田の頭の片隅にちらつくのは、 「新しい症状が出現したら、今投与している薬が原因でないと結論できるまでは、薬が原因と考える」 の原則
それぞれの薬品の添付文書で確認してみたが、桜井さんの症状に当てはまるような記載はない
杉田 : 「どこか、他の医院で何か薬を処方されていませんか?」
すると嫁から意外な言葉が返って来た
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません