2013/05/09
前回の話 : 過換気症候群?つづき
心臓は殆ど動いていないに等しい状態だ
肺の CTでは、心陰影の拡大と両側胸水、それに肺門から広がる淡い線状陰影が見られた
また一部にメロンの皮に似た肺炎像もある
まさに遠藤の指摘した通りの所見だ
「心筋炎ですね」
「補助循環が必要と思います」
鮎川 : 「エクモですか?」
佐橋 : 「エクモ? だって心臓動いてないんでしょ」
「 PCPSと IABPの併用で行きましょう」
鮎川 : 「エクモって PCPSのことじゃないんですか?」
佐橋 : 「エクモってのはね、人工呼吸をしても酸素濃度が上がらない時に使うんです」
「すなわち、 ARDSの補助療法と考えればいい」
「可逆的でない ARDSには使わないけど、可逆的な重症インフルエンザ肺炎の呼吸不全には有効みたいだね」
「今、 EF 15でしょ そんな、殆ど動いていない心臓では循環が保たれていない」
「だから大血管内の血液だけ酸素化したって、全身に酸素が行きわりません」
「補助循環をまわしながら PCPSで酸素化するのが正しい」
ドラマERで エクモが登場するシーンを見ていたことがあったので、つい循環器の専門家を前にして愚問を発してしまったことを恥じると同時に、エクモと PCPSの違いを知ることになった
佐橋 : 「でもね、結局、エクモも PCPSも、血液酸素化の原理はほぼ同じですよ」
「それにしても、急がないと」
患者は循環器チームに IABPと PCPSを装着されることとなった
10日目には IABPが抜去され、患者はその後、順調に回復に向かった
「早く相談してくれてありがとう 患者が助かったのは君のおかげだ」
「心筋炎は、最初を乗りきれるかどうかで生命予後が決まる」
「原因はコクサッキーBが多いけど、インフルエンザウイルスによる心筋炎もけっこうあるんだ」
インフルエンザの恐ろしさは意外な所に潜んでいることを、改めて認識したのであった
ARDS : acute respiratory distress syndrome (急性呼吸窮迫症候群)
EF : ejection fraction(駆出率) : 心臓の収縮の強さを表す 正常では 60から 90%程度
エクモ (ECMO) : extracorporeal membrane oxygenation (体外式膜型人工肺)
PCPS : percutaneous cardiopulmonary support (体外式心肺補助装置)
IABP : intraaortic balloon pumping (大動脈内留置バルーン式ポンプ)
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません