2014/03/26
「腰痛と左下肢痛」 で救急搬送されてきた、 72歳女性患者を目の前にして思った
「これは整形領域の疾患ではないのか?」
腰椎のあたりに圧痛があるようだが、部位は特定できない
右膝は自分で立てることができるが、左膝は痛いのか、少ししか動かせない
佐伯は、腰の疾患を第一に考え、採血を済ませた後、腰椎のMRIをオーダーした
腰椎の 2番と 3番の間、 3番と 4番の間から椎間板が後方へせり出し、脊柱菅はかなり細くなっていて、腰髄にも圧迫があるように思われた
これで全ての説明がつくと思った
すると、その時、血液検査のデータが届いた
CRP 17.5mg/dl、 末血の白血球数 7600
しかし、好中球の核左方移動はあまりない
腸腰筋膿瘍や胆道系感染も否定する必要があると考え、彼は、改めて腹部 CTをオーダーした
CRPの異常な高さだけが気になったが、 「少なくても内科疾患ではない」 と考えた佐伯は、整形外科に院内紹介状を書いた
「診断名 : 左膝偽痛風」
しまった
見逃した
佐伯は左膝を触らなかった
触れば、きっと熱感や腫脹があったことだろう
比較的高齢の女性に発症する、大関節の炎症である
膝関節が最も多いが、肩、肘、足、股関節などにも起きる
関節包内に、ピロリン酸カルシウムが沈着することが原因だがその理由は良く知られていない
男性に多い 「痛風」 とは、沈着する物質も、症状も、治療も異なることから 「偽」 がつく
高熱、CRPの中等度の上昇が見られるので、感染症と間違うこともある
高齢者の不明熱の鑑別の第一に挙げられるべき疾患であり、それほどに多い疾患だ
そして、今まで、偽痛風の患者はいくらも診てきた
それなのに見逃した
患者の最も痛がる部分を見つけ出さなかったために
そして、その部分を触らなかったために
それを重視し過ぎることにより、結果的に他の可能性を無視して物を考えてしまう、いわゆる 「アンカリング ・ バイアス」 が働いた典型である
「一刻も早く救急を終らせたい」
との心理が 「手抜き診療」 と言われても仕方ない、左膝関節炎見逃しの遠因だったかも知れないが、そんなことは言い訳にもならない
「痛い所は特定せよ」
という、ごく当たり前のものであった
※ この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありませんが、医学的記述に関しては間違っていないはずです