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No.332 家族

2014/07/07

東新記念病院の鮎川真奈実は今年で 35歳になる

独身である

ある飲み会で、後輩である新藤が

「先生、結婚はされないんですか?」

と聞いた

「失礼な奴、地雷を踏みやがったな」

と思いつつも、真奈実は見栄を張った

「いつかはね」

内心 「いらぬお世話だ このセクハラ野郎」 と思ったが

容姿に自信がある真奈実は、 「こいつ、もしかして私に気があるのか?」 と、一瞬考えた

「ないない、こんな非常識な奴はお断りだ」

むっとした真奈実をみて、誰かが

「まあまあそんなことは後にして」 と、巧みに割り込んで話題をそらした

事実、真奈実はすでに開き直っていた

「結婚したい相手が出てこなければ、生涯独身でかまわない」

この業界は出会いが極端に少ない

相手は、ほぼ医者に限定だが、いいなと思う医者はたいてい既婚である

「出会い」 という面では、男の医者は恵まれている

看護師を含めて、病院には未婚の女性がたくさんいるから

真奈実が 20代の頃

周囲は結婚や恋愛を話題に出したものだが、今では流石に誰も地雷を踏むような真似はしない
空気の読めない新藤を除いては

相手がいようがいまいが

結婚しようがしまいが、そんなことは個人の勝手である
真奈実には、彼氏らしき存在は、過去に幾人かあった
しかし、結婚する気持ちにはなれなかった
皆、自分勝手で頼りない男ばかりだったからだ

自分は男脳なのかも知れないとも思う

結婚生活を続けるためのさまざまな制約

仕事やキャリアへの支障、夫という他人や、その家族とかかわりを持たねばならない煩わしさやストレスを考えると、一度しかない人生、生涯未婚のほうが、遥かに自由であり、メリットが大きい

真奈実は、日本から婚姻制度がなくなれば良いと、真剣に思っている

「日本から婚姻届さえなくなれば平和が来る」

それに、真奈実は子供が大の苦手だ

小児科外来の前を通るのも嫌で、わざわざ遠回りするくらいである
2から 5歳児は、自分勝手で我儘、予防接種程度のことで泣き叫ぶ
場の空気を読まない
金切り声をあげる
キャッツキャと叫びながら そこら中を走り回り、親は注意さえしない

誰でも 「自分の子は可愛い」 というが

真奈実には、たとえ自分の子であっても可愛く思える自信がないし、親の重責を担う自信も全くない

真奈実は考える

結婚して子供ができれば、所謂 「家族」 となる
暫くは 「家族団欒」 が続くだろう
しかし、子供はやがて独立して家から去って行き、結局は夫婦 2人きりとなる
やがて、どちらかが世を去り、結局、残されたどちらかは独居となる
結末は、生涯未婚と同じではないか
もちろん屁理屈であることは分かっている

現代

老後になってはじめて子供の家族と暮らすのはストレスが多いらしく、例えば 90歳になっても一人暮らしをしている人は多い
体の動くうちは、あくまで個人として、子の助けを借りず、自立した暮らしをしたいと思うのが人間だろう

統計によると

日本では毎年約 4000件の殺人事件があるが、その過半数は親族内で起きているという
つまり、それらの事件の当事者達は、結婚さえしなければ、そんな恐ろしい犯罪に巻き込まれることなく、平和に暮らして一生を終えることが出来たであろう

「家庭の幸福は諸悪の本 (もと) 」

と、太宰治は、短編 「家庭の幸福」 の中で述べている
その意味することは恐らく深長で、誰も正確にはわからないし、色々な解釈があるのだが、以上のような要素も多少なりとも関係があるように思う
因みに小説の中では、ごく普通の公務員が家庭の幸福と引き換えに、他人を親切に扱わないさまを描いている

「生涯未婚」 は、 「異性と関係を持たない」 ということではない

好みの異性がいれば付き合うもよし、同棲するのもよい
子ができれば、 2人で、あるいは、どちらかが育てればよい

「生物多様性」 という用語がしきりに叫ばれるくらいだから

「生き方多様性」 は当然、社会に認知されるべきだ
生涯未婚のどこが悪い

そりゃ

男は不器用だから女がいなければ何もできないかも知れない
しかし、女は強くて賢いから、仕事さえ順調ならば 邪魔になる男なんかいなくたって生きてゆけるのだ

日本では戸籍制度があり

恐らく相続 (税) の問題から、一夫一婦制の結婚制度が民法で規定されているのだろう

いっぽう、日本が何かと模倣したがる米国に戸籍制度はない

それにも拘わらず、米国社会は機能している

とは思いつつ、同級生が次々と結婚してゆく中で、真奈実の心は少し揺れる

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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