ホーム > Dr.ブログ > No.362 生殺与奪

  • 救急の場合
  • 診療時間
  • 面会時間
  • 人間ドック
  • フロアマップ
  • 川口正展のなるほどザ・メディスン
  • Dr.ブログ

No.362 生殺与奪

2015/01/05

あまり使わない用語である

「ある人の人生の成功、失敗を、権力によって支配すること」

といった意味に用いられる

しかし、文字通り

「人の命を奪う、奪わない、を決める権利」 を持った人がいる

例えば、軍隊を有する国では、軍人は生殺与奪権を持っている
戦場で敵兵を殺傷しても罪に問われることはない

では 今の平和な日本ではどうだろう

裁判官と法務大臣はこの権利を行使することができる

他にはいないはず?

いや、そうではない

終末期医療の世界では、国民の誰もが、誰かの生殺与奪権を持ちうる

たとえば、高齢で認知症がひどく、重介護の必要な A氏が肺炎になったとしよう

その肺炎が重症で、人工呼吸が必要となったとしよう

それで A氏の息子である B氏に、人工呼吸をする旨を伝えたとしよう

その時、 B氏が人工呼吸をしないと A氏は死亡することを理解した上で、 「人工呼吸をしないでもらいたい」 と言ったとしよう

人工呼吸を実施しながら抗生剤投与をすれば、 A氏は救命できるかも知れないことも、 B氏は理解していての発言である

この時、 B氏は A氏の生殺与奪権を持っていることになる

こういった場合、医師は果たしてどうするのであろう

B氏が父の介護に疲れ切っていることはわかる
しかし、治癒の可能性のある治療をみすみす行わないわけには行かない

たとえ治癒の可能性があったとしても、抜管できず、人工呼吸を続ける羽目になることだってありうる
人工呼吸器関連肺炎 (VAP) になることだってある

息子の意思に沿って人工呼吸をしないで A氏が亡くなった場合、後になって B氏が前言を翻して訴訟に持ち込むかもしれない

逆に、息子の意見を取り入れず人工呼吸をおこなって、 VAPを併発して亡くなれば、なおさら問題はこじれるかも知れない

本人の意思が確認できない状態では

家族や近親者に生殺与奪権をゆだねるほか、ないのだろうか?

 |